日本で2018年11月に公開以降、19万人が泣き笑いし異例のヒットとなった、認知症ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』を2019年9月に、当協会主催で、バンクーバー市とリッチモンド市で映画上映会を行いました。バンクーバーでは約190人、リッチモンドでは約160人を動員し、「日本語認知症サポート協会」の存在を多くの方に知っていただく良い機会となりました。
この映画は、2014年に85歳で認知症と診断された母の信友文子さんと、93歳で妻の介護をはじめた父の信友良則さんの姿を、二人が暮らす広島県呉市を舞台に、東京で映像ディレクターとして働く娘の信友直子さんが1200日撮影し、監督も務め、映画化されたものです。
今回は、その後の信友ファミリーについて、触れてみたいと思います。
お元気な頃は、料理・裁縫が得意な万能主婦、趣味の書道では全国大会で表彰されるなど、ご家族にとって自慢の妻であり母であったユーモア溢れる文子さんでしたが、2020年6月14日に、脳梗塞とその後遺症の末、良則さんと直子さんに看取られ他界されました。昨年は、世界中コロナ禍で、見舞いもままならなかったけれど、日本では面会が許可になった6月初旬から毎日、病院に通った良則さんと直子さんは、寝たきりの文子さんに思う存分話しかけることができ、危篤状態になっても思い残すことなくお別れができたと仰っておられ、ご家族で素敵な最期の時間を過ごされたご様子でした。
老老介護を全うした良則さんは、2020年11月1日、めでたく100歳を迎えられました。愛妻の死を乗り越え、なお、お元気な様子が、直子さん主催の「オンライン誕生日会」で披露されました。約180人の呉の方々や遠方にいる方々と、盛大なバーチャルでのお祝い会となり、感極まり涙していらっしゃいました。主催者の直子さんは、インタビューで、『映画「ぼけますから…」を制作&上映していなかったら、母が亡くなったあとに結構ショックだったりしたと思うのですが、「お母さん残念じゃったね」とか? 呉の街の皆さんからお声をかけて頂けるので、この地域の人たちとの触れ合いが、100歳を迎えた年寄りにしては珍しく沢山あり、生きがいに繋がっていると思う』と答えておられました。また、ご当人の良則さんも、「もうちょっと生きたいと思います。ここまで生きるとは思いもしまへんでしたけど、もうちょっと頑張ろうと思うとります」と生きる意欲満々でした。
私たちは、色々な人と色々な形で繋がり生きています。そう言った社会との繋がりが豊かな方が、将来長く健康でいられ、認知症にもなりにくいことが知られています。具体的には、週1回以上友人達と交流している方が、活動能力障害や死亡リスクが低いこともわかってきています。また、同世代との繋がりだけでなく、世代を超えた繋がりも効果的です。自分と異なる背景を持つ人との付き合いが多いほど、抑うつになりにくく、認知機能低下が起こりにくいという研究結果も出ています。
早いもので、信友文子さんが逝去され、今年の6月で一周忌を迎えます。93歳から認知症の妻の老老介護をやり遂げた良則さんの「ゴールデンタイム」は、神様からのプレゼントの様な心豊かな素晴らしい時間のようです。天国の文子さんに見守られながら、娘である監督の直子さんとのお2人の時間を思う存分楽しんで頂きたいと切に願っています。どうぞ、いつまでもお元気で。(2021年4月)
(2021年4月 / Y.H)
参考:
広島ニュースTSS 「映画「ぼけますから…」その後 60年連れ添った妻を失った父は…」
FNNオンライン 「映画「ぼけますから…」その後の物語 娘が捉えた親の”老い” 100歳の父とこれから」